Killing me softly with his song

 目覚めた瞬間の倦怠感に、ああ、なにやってるんだ、と一回目のため息。なにが悲しくてソファーの隅で膝を抱えた姿勢で目覚めるなんてことが起こるんだ。淀んだ空気――おそらく昨日のらんちき騒ぎのせいだ、酒と煙草の匂い。どちらもおれはすきじゃない、はやくだれかまどをあけて――を追い出してしまうために立ち上がると、まずここが居間であることに気づき、その居間のフローリングに空き瓶やプレッツェル、ピーナッツの皮やジェリービーンズ(こんなものが好きなのはガキだけだ、いや19才だって十分にガキの範疇に入るのは理解しているけれど、しかし――)、そして出来るなら目に入れたくなかったゴム(うちはモーテルじゃない、人の部屋まで遊びにきて一体何してるんだ、だから良く知りもしない人間をあげるのはいやだ)――が落ちているのに2回目のため息。誰が片付けるっていうんだ。とりあえず換気だ、換気をしよう。それから自分の部屋の安全を確かめたい。
 アンティークなんて上品な言葉はそぐわない、がたのきている窓を押し上げた後、足元に下着一丁で抱き合っているルームメイト――ハイスクールデビューしたかったのか、顔に刺青なんか入れてしまったせいで親とは冷戦中。タトゥースタジオ勤務。もうひとりはガタイとルックスだけはいい、大学はいつでも自主休講中の、ロックアイコンになるというロマンチックな夢に生きているらしい、同級生――を見つけ、三回目のため息をスコールはつくことになる。やっていられるか。軽く二人の頬をたたくと、ぁあ、とか、うあ?とかいう声を上げた後、二人は立ち上がる。
 スコールが浴びせる視線の温度に気が付いたらしいゼル――刺青のほう、は慌てて、そのへんに散乱しているTシャツやハーフパンツを身に着けながら、ごちゃごちゃと弁解をしている。
「ち、ちがうんだからな、これは、その、酔って、あ、あつくなったんだ、そしたらさ、朝になって寒くなっちまって……」
「…………」
 寝たりないのか、不機嫌そうな顔を浮かべて窓辺に立つもう一人のルームメイト、サイファーは「俺は、寝なおす」と言って、大きくマンソンのポスターが貼られたドアを潜って、自室へ去っていく。
 スコールと2人は、今、おせじにも上等とはいえないこの3LDKをシェアしている。
 あーあ、どうなってんだ、これ……。目が覚めてきたのか、リビングの惨状を見て、ゼルも頭を抱えている。そんな彼を尻目にスコールはキッチンへ向かい、ダイエットコークの缶を冷蔵庫から取り出し、煽った。
 壁掛け時計を見れば、短針は3、長針は6を示している。窓から差し込む光をかんがえても、午前3時半である可能性は低かった。
「おい、ゼル。仕事はいいのか」
「……おう、今日は休み。スコールこそ、今日バイトだろ」
「ああ、シャワー浴びて、出る。片付け頼めるか?」
「任せとけよ、その代わりまかない持って帰ってきてくれよ」
「ああ」
 顔を交わさず、声だけで用件を済ませると、スコールはそのままバスルームに向かう。煙草の匂いのついた服なんて勘弁だ。だれだ、ルームシェアの条件は禁煙だ、と言ったときに「わかったぜ」なんて言ったヘビースモーカーは。スコールは、自分をうんざりさせる匂いの染み付いた服を脱ぐと、バスタブの中に入っていく。ゆっくり湯につかる時間はない。目を瞑って、降り注ぐ湯の熱さを感じると、本日4度目のため息をついた。