ナイトホークス、あるいはどっかの明るい浜辺の夢

自分の部屋に帰って、ルーティン通りのウェイトトレーニングをし、いつも同じ温度で同じ時間だけシャワーを浴び、ソファーに座って退屈なニュース番組を眺める。番組の最後に流れる、お決まりのナレーションは『今日も一日ホームタウンは平和でした』だけど、『退屈でした』の間違いだろ、といつもと同じタイミングで呟き、TVを消す。
一つだけ違ったのは寝室に持ち込んだしわくちゃの雑誌。ベッドの上で眺めていたそれをぎゅう、と胸元に抱えてみる。明日も多分、大して美味しくないレンジアップするホットドックを食べ、事件なんて一つも起こらない町をパトロールし、伸び気味のスパゲッティを食べ、熱された泥水みたいなコーヒーを飲む。でも、そんな繰り返しの日々の向こうに、どっかの明るい浜辺でくつろぐ休日があるかもしれないと思えるのは、大分マシだ。
それはまるで、食べ尽くしたと思ってた缶入りクッキーの最後の1枚を見つけた時の、あるいは、灯りがほとんど消えた町に一軒だけ煌々と光を放つ、24時間営業のコンビニかダイナーを見つけた時の気持ち。
『この本の良さを分かってくれる人に出会えてわたし本当に嬉しいの、だってあの作品にも海辺の素敵なシーンがあってね、それでーー』
バタースコッチのパイを食べるのも忘れて、嬉々として好きなマンガの話を早口で語ってた、黄色い、あのモンスターの彼女。アルフィーも同じなんだろうか。
雑誌をベッドサイドのテーブルにそっと置き、部屋の明かりを消して、目を閉じる。また会うことがあれば、聞いてみよう。もし、顔を合わせることがなくてもーーその時は町中探し回って無理やりにでも尋問するさ。不思議と気があいそうな、彼女に。
『いつ出発するんだ、海辺のバカンスに』
それから、『トモダチにならないか』って、さ。