紅蓮祭、あるいはゲゲルシュ氏の退屈

 霊4月、それは普段それほど人気のない高級避暑地に冒険者が集結する季節だった。炎が風をはらんで、ごうごうと大きくなるように「紅蓮祭」の熱狂は、暑さと日差しの厳しさが増すほどに高まっていくようだった。

 血染められた海岸ブラッドショアを「太陽の海岸」と名付けなおした篤志家・ゲゲルシュ氏は、天井のファンがゆるく空気をかき混ぜるテラスから、気に入りのデッキチェアに身を横たえながらお決まりの退屈そうな表情を浮かべる。

「のぅ、子猫ちゃ~ん、今年はあの、人が吹っ飛んだり、ザバーン!と海に落ちていく『アレ』はないのかのぉ」

 かれこれ今月に入ってからたっぷり100回は繰り返された質問に、巨大な扇で主人を仰ぎ続ける様々な種族の美女たちはあいまいな笑いを浮かべる。

 毎年、ジャンピングアスレチックに挑み、何度落下しても頂上を目指す冒険者たちは、熱気に満ちたまったき渦のようだった。そう、それは霊4月の螺旋と呼んでもさしつかえのないもの。ゲゲルシュ氏の退屈は、冒険者たちがまた一人、また一人と三大都市へと帰っていく頃まで続くのだ。